抗老化物質 NMN 研究の第一人者『開かれたパンドラの箱 老化・寿命研究の最前線』

開かれたパンドラの箱 書籍感想

おはようございます。

人間の身体機能は 20 代をピークとして衰え始めます。加齢や、それに伴う老化現象は誰にも避けることができません。この老化と積極的に闘うという「アンチエンジング(抗老化)」は美容外科に限らず、多岐にわたります。今回は、抗老化物質 NMN の研究で世界から注目を集めている、日本人研究者による書籍を読む機会を得ました。多くの学びがありましたので、記事にまとめたいと思います。

本日は書籍『開かれたパンドラの箱 老化・寿命研究の最前線』(著者:今井眞一郎さん)の要約・感想記事です。

老化・長寿化研究の歴史をイッキ読みしましょう

『開かれたパンドラの箱 老化・寿命研究の最前線』

記事の内容は、以下の通りです。

  • 本書の概要と、著者について紹介
  • 老化のカギを握る物質たち
  • 老化のコントロールセンター

それぞれの内容についてみていきます。

本書の概要と、著者について紹介

本書の概要です。本書は 2021 年に朝日新聞出版より出版されました。

老化・寿命のメカニズムはどこまで解明されたのか。世界の最先端で研究を牽引する著者が何に着目し、どう研究を進めてきたか、実証的に記す。話題の NMN をはじめ、世界で開発が進む抗老化法はどこまで検証されてきたのか。わかりやすく紹介する。

朝日新聞出版 商品紹介ページ(https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=22996)より引用

著者である今井眞一郎さんは、ワシントン大学(米国ミズーリ州セントルイス)医学部の教授です。経歴は、1989 年に慶應義塾大学医学部を卒業し、1993 年に同大学の大学院博士課程を修了され、助手へと着任されました。その後、1997 年にマサチューセッツ工科大学生物学部にてポスドクの時期を過ごし、2001 年ワシントン大学医学部の助教授となり、2008 年に准教授、2013 年に現職へと着任されたようです。

今井教授は老化研究の世界的権威であり、酵母やマウス、人間の体内にある酵素「サーチュイン」が、老化や寿命を制御しているという事実を発見したことで知られています。そして現在は、今井教授が中心となって行われている抗老化物質 NMN(ニコチンアミド・モノヌクレオチド)に関する臨床試験が世界中の注目を集めています。

今井教授は寿命制御研究における第一人者といえる方です

老化のカギを握る物質たち

本書の前半部分では、今井教授ご自身の経歴や、研究者としての道のりが語られていました。個人的には偉人のドキュメンタリーは好きなので、楽しんで読めました。ポスドク時代の海外でのチャレンジはは大きな選択だったと思いますし、環境の変化に自ら飛び込むことは私自身にはできなかったことなので、すごいなあと思いながら読みました。

中盤からは、ご自身および研究室メンバーの研究業績の紹介を交えながら、老化制御のメカニズムについての解説が進められていきます。ここでは今井教授が成し遂げた世界的発見である NAD(ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド)の働きを中心に、NAD 合成の鍵酵素となる NAMPT(ニコチナミド・ホスホリボシルトランスフェラーゼ)や、NAMPT が作り出す NMN との関連について解説されていました。これらについて本記事で解説するのは到底不可能(これは私の力不足)なので、詳細が気になる方は、ぜひ本書を読んでいただきたいです。

今井教授はこれらの物質と、後述する老化のコントロールセンター(視床下部や脂肪組織)との関連を NAD world 2.0 として 2016 年に提言しています。英語の文献ですが、興味のある方はご覧ください。(下記画像が記載された文献は https://www.nature.com/articles/npjsba201618 よりダウンロード)

専門用語が並んでいたので、十分に理解するのは難しいと感じました。

老化のコントロールセンター

NAD world 2.0 によると、老化 / 寿命の制御には、前述した様々な物質が、視床下部(Hypothalamus)脂肪細胞(Adipose tissue)、骨格筋(Skeletal muscle)に影響を与えています。そしてこれらの組織の間でも相互に影響を及ぼしあい、身体全体の老化がコントロールされているようです。

〈視床下部 コントロールセンター〉
NAD は全身のいたる所で活動しています。今井教授らは、この NAD の活性が、全身の中でも特に脳の視床下部で高まることが老化制御に重要であることを明らかにし、視床下部が寿命 / 老化のコントロールセンターであるとしています。視床下部が老化制御に重要であることは、他の研究チームもまったく異なる角度から明らかにしているようなので、おそらく間違いないだろうとのことです。

〈脂肪細胞 モジュレーター〉
肥満や炎症性サイトカインの放出など、健康や長寿とは離れたイメージのある脂肪細胞ですが、Nad world 2.0 では視床下部のモジュレーター(modulator)として位置づけられています。視床下部と脂肪細胞は互いにリンクしており、脂肪細胞から放出される NAMPT という酵素が視床下部における NAD や SIRT1( silent information regulator-1 )の働きを保つ役割をしています。また、視床下部からは交感神経系を介してその働きが調整されているようです。

このことより、NAD world 2.0 における脂肪は「減らしすぎるとよくないもの」となり、小太りの状態で内臓脂肪をある程度蓄えた方が生存に有利(これを obesity paradox といいます)という現象の根拠となるかもしれないようです。個人的には、この内容は本書で強く印象に残った点でした。

〈骨格筋 エフェクター〉
骨格筋も NAD world 2.0 において重要な役割を担っています。その働きはまだ研究段階であり、おそらく視床下部からなんらかの制御を受けて、脂肪細胞への働きかけをする可能性があるようです。実際に、動物実験では、脳におけるサーチュインの活性を人為的に高めると骨格筋が若く保たれるという現象も確認されていますし、骨格筋の果たす役割については、今後の研究成果を待ちたいと思います。

個人的には、理学療法士が大好きな骨格筋が、寿命制御のメカニズムにおいて大きな役割を果たす可能性があるという点は、非常に興味があります。運動療法の専門職として、このあたりの情報にはしっかりとアンテナを張っておきたいと感じました。

長寿研究で大きな成果を上げる理学療法士がでてくるかも…(既出でしたらスミマセン)

まとめ

老化 / 寿命制御の詳細も、だんだんと明らかになっています。同じ日本人として、この分野の第一人者の活躍に今後も注目しましょう。

本日は書籍『開かれたパンドラの箱 老化・寿命研究の最前線』より、

  • 本書の概要および著者について紹介。今井教授は老化研究における世界的権威の一人。
  • 今井教授の研究成果として、NAMPT や NMN、NAD、SIRT 1 などによる老化 / 寿命制御メカニズムが明らかにされている。
  • 視床下部や脂肪細胞、骨格筋が寿命制御の関連組織となっていそう。これらへの介入が寿命を左右するかも。

上記 3 点について、私なりに要約・感想を記しました。

本書を読み、今井教授の功績の大きさを知ることができました。これまで私が読んできた長寿化研究に関する書籍は、いずれも海外の研究者によるものでした。世界の最前線で活躍されている今井教授を、同じ日本人として応援したいと思いました。NMN に限らず、今後の研究成果にも注目していきたいです。

ぜひ手に取ってみてください

【長寿関連オススメ書籍のご紹介】

『LIFE SPAN 老いなき人生』

同じく老化研究の世界的権威であるデビット・A・シンクレアさんのベストセラー書籍です。「老化は病気」であるとし、治療できると力強く述べています。本書とあわせて読むと、老化 / 寿命制御について一層理解が深まるでしょう。

『SuperAgers 老化は治療できる』

こちらも同じテーマの書籍です。著者は、NMN 同様に注目を浴びているメトホルミンによる抗老化研究の中心人物です。こちらも研究成果が待たれます。

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