おはようございます。
本日も書籍『21 Lessons』の要約・感想記事です。
前回の記事では、本書および著者についての紹介と、21 世紀の人類が直面するテクノロジーおよび政治の課題について記しました。未読の方はコチラからどうぞ。
本記事を作成するにあたり、文科省の中央教育審議会による興味深い資料を目にしたので紹介します。21 世紀の社会像について端的にまとめてありました。
21 世紀は、新しい知識・情報・技術が政治・経済・文化をはじめ社会のあらゆる領域での活動の基盤として飛躍的に重要性を増す、いわゆる「知識基盤社会」の時代であると言われている。物質的経済的側面と精神的文化的側面の調和のとれた社会を追求していくことが、国際社会を構築していく上でも基調となると考えられる。
(文部科学省中央教育審議会 我が国の高等教育の将来像(中間報告)補論1 21 世紀初頭の社会像 より引用)
資料中の「精神的・文化的側面の調和の取れた社会を追求する」ことは、本書でハラリさんによって説かれている内容と重なります。本書は、この調和のために私たちが認識すべきことを理解するのに大いに参考になると思います。ボリューム満点の書籍ではありますが、世界的歴史学者の視点に触れてみましょう。
本日は、書籍『21 Lessons 21 世紀の人類のための 21 の思考』(著者:ユヴァル・ノア・ハラリさん)の要約・感想記事(2)です。
私たちが身につけるべきものは何なのか、学んでみましょう
21 世紀を生きる私達に必要なこととは?『21 Lessons』(2)
記事の内容は、以下の通りです。
- 希望 無知を認め、謙虚であり続けること
- 真実 のどかな真実の時代などなかった
- レジリエンス 21 世紀を生きるうえで必要な力
それぞれの内容についてみていきます。
希望 無知を認め、謙虚であり続けること
先日の記事で触れたように、本書では 21 世紀に直面している多くの課題が挙げられています。どれも複雑な難題ばかりで、簡単には解決できません。また、テロや戦争といった 20 世紀から続く脅威にも備えなくてはいけません。本書ではこれらを絶望と表していました。人間の愚かさが起こす絶望に対し、決してパニックにならず冷静に対応することが重要です。
しかし、絶望があれば希望もあります。本書では、謙虚さ、道徳、世俗主義というキーワードのもと、ハラリさんの考えが述べられていました。
<謙虚さ・道徳>
自らを世界の中心と思わず、思いやりの心をもち、苦しみを減らすことが、21 世紀を素晴らしいものにするための希望です。ハラリさんは、宗教(とくに一神教)で崇められている神を中心とした世界観は謙虚さが足らないため、 21 世紀の課題解決に対して有効な手段とはならないと主張していました。ハラリさんは自国の主たる宗教であるユダヤ教を含め、多くの宗教は「物語」であると一掃しています。道徳を積むために、聖書を愛読したり神を崇めることは必須ではありません。
<世俗主義>
世俗主義とは、政治のような公共の領域に、宗教が影響を及ぼすべきではないという考え方のことを指します。また、世俗主義では、個人は信教の自由があり、行動や決断は宗教による影響を受けていない事実や証拠によってなされるべきという考えにもとづきます。これは宗教が強い影響力を持っていた中世から、社会が近代化に向かう運動の一部でした。
ハラリさんは宗教に対しては上記のような見解の持ち主であり、あくまで世俗主義の立場から真理を求め、小さくてもいいから望ましい変化を起こしていくことが重要だと述べています。
真実 のどかな真実の時代などなかった
このあたりから、本書は終盤に入ります。ここまで多くの課題を指摘してきたハラリさんから、人類が 21 世紀を生き抜く上で認識すべき・身につけておくべきことが挙げられていました。
この「真実」というパートでは、複雑になりすぎた現代について私たちが持つべき姿勢について、無知、正義、ポスト・トゥルース、SF(Science Fiction)をキーワードとして解説されていました。
<無知・正義>
ハラリさんは、本書のなかでさんざん挙げてきた 21 世紀の課題に対して、ほとんどが理解できず手に負えないという印象を持つことは正しいと述べます。それほどに現代は複雑になりすぎて、世界についてよく知っているという人はほどんどいないのです。狩猟時代であれば、人はせいぜい集落の中で起きていることを把握していれば十分でしたが、現代ではそうはいきません。まず私たちは、世界に対して無知であることを認める必要があります。
無知であることはネガティブな印象があるかもしれませんが、哲学の父ソクラテスによる「無知の知」という言葉や、人類は無知であるがゆえに他人と協力し、この地球の支配者となれたという歴史もあります。無知は決して恥じることではありません。
しかし、この無知に対して魅力的に映るのが宗教的な信条やイデオロギー(観念形態や意識体系、政治的意見や思想傾向の意)です。それは、多くの宗教が世界の成り立ちを説明し、世界の複雑さを考えるときの避難場所となるからです。しかし、それが正義(真実や道徳に基づいた正しさ)であるかどうかは疑わしいため、十分な注意が必要と述べていました。
<ポストトゥルース・SF>
真実というタイトルがついた本章の終わりには、「そもそもこれまでの人類史に、のどかで真実の時代などなかった」というインパクトのある一文が載せられています。ハラリさんによれば、人類はこれまで常に虚構を作り出し、それを何千万・何億の人々が 1000 年以上信じることができたからこそ、人類は繁栄したのです。21 世紀の人類には、インターネットの普及、SNS の発展に伴い爆発的に増加・複雑化している虚構や悪行と、真実や正義とを、どこまで見分けることができるかが問われています。
そして本章の最後には、ハラリさんからのメッセージとして、世界が単純ではなく複雑であること、自分は世界のほとんどを知らないことを認めることと、信頼できる情報源にアクセスすること(または、その技術を取得すること)にお金と労力をかけ、自己という狭い定義を脱することが、時代を生きる必須のサバイバルスキルになることか挙げられていました。
本文中の理論も少々複雑と感じる箇所もありました。世界は複雑です。
レジリエンス 21 世紀を生きるうえで必要な力
本書の最終章では、指数関数的に進歩する技術に囲まれ複雑化する時代に、私たちや子どもたちが何を学ぶべきかが述べられていました。
結論から言うと、2100 年や 2050 年はおろか、10 年後でさえ世界がどうなっているか想像がつかないため、答えは分からないようです。ただ確実に言えることは、情報過多な現代において、更なる情報を得る(与える)ことはあまり意味がありません。むしろ、それらの情報を理解し、統合して解釈し、世界をとらえる能力の方が重要であり有用となるでしょう。
また、21 世紀は、これまで以上に変化の激しい時代になると思われます。寿命は延び、人生のステージにも変化が増え、さらに環境やテクノロジーの変化も経験することになるでしょう。そんな時に重要となるのは、新しいことに対応し、学び、なじみのない状況下でも心の安定を保つ能力であるとハラリさんは説いています。これは子育てでいう自己肯定感や、近年でよくいわれるレジリエンスを高めることと近いものがあると感じました。
加えて、自分自身をよく観察し、知っておくことも重要となります。21 世紀はデータとアルゴリズムの時代です。そんな時代に少しでも自分自身の主導権を握っておきたいのであれば、Amazon や Google、政府のコンピュータよりも早く、自分自身についての理解を深めておくべきです。この点について、ハラリさんは瞑想を推奨していました。ハラリさん自身も瞑想を 1 日数時間行っているようで、本書の執筆にも瞑想で自分と向き合う作業が不可欠だったと述べていました。学者が瞑想の有用性を説くのは少し意外な印象をもちましたが、「人類は虚構を信じて生きてきた」という主張を持つハラリさんだからこそ、心という自分自身にとっての真実と向き合う重要性を感じているのかもしれません。
瞑想には科学的エビデンスもあります。私もやってます(ハラリさんの 1/100 くらい)
まとめ
21 世紀を生きる上での課題は多いですが、希望もあります。自分自身の舵をしっかり握っていきましょう。
本日は、書籍『21 Lessons』より、
・無知を認め、謙虚な姿勢を忘れないこと。あなたは世界の中心ではない。
・世界は複雑すぎて理解できない。虚構(フェイク)を見分ける能力を育もう。
・自己を見つめ、しなやかなレジリエンスを身につけよう。ハラリさんは瞑想をオススメしている。
上記 3 点について、私なりに要約・感想を記しました。
これまで哲学のジャンルは読んだことがなく、また本書で扱われていたテーマも壮大すぎて、非常にタフな読書経験となりました。恥ずかしながらハラリさんのことは本書を通じて初めて知りましたが、文章(これは翻訳者の力も大きいと思いますが)や語り口の聡明さに大変惹かれました。既刊書籍も読んでみようと思います。
ぜひ手に取ってみてください
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