おはようございます。
原材料価格や物流費の高騰を受け、食品・サービスなど幅広い分野で値上げの動きが広がっています。最近の生活の中では「安い」と感じられる場面は少なくなっている一方で、世界から見ると日本のモノやサービスの値段は「安い」ようです。
消費者からすると安いことはありがたいことなのですが、いいことばかりではありません。この点について、私のようなものが経済について述べるのはいささか畑違いではありますが、書籍を通して学びになった内容をまとめました。
本日は、書籍『安いニッポン 「価格」が示す停滞』(著者:中藤 玲 さん)の要約・感想記事です。
本書を読み、日本の「安さ」を感じてみましょう
『安いニッポン 「価格」が示す停滞』
記事の内容は、以下の通りです。
1.ディズニーもダイソーも日本が世界最安
2.日本の賃金・雇用体制では優秀な人材は確保困難
3.安いニッポンの将来像
それぞれの内容についてみていきます。
ディズニーもダイソーも日本が世界最安
本書の第一章では、様々な例を挙げながら世界における「日本の安さ」が解説されています。具体的には、世界と比較可能なディズニーランドの入場料や 100 円ショップなどの料金が、諸外国と比較して日本が最も安いというデータが示されていました。
ディスニーランドは東京・香港・上海・パリ・フロリダ州オーランド・カリフォルニアの 6 箇所にあります。各地域のディズニーランドそれぞれに特徴があり、また広さやアトラクションの数も異なるため一律比較は難しいですが、東京ディズニーランドの入場券は世界最安基準です。
下の表は、2021 年時点の各国ディスニーランド入場料を記載したものです。
東京 | 8,200 円 |
フロリダ | 14,500 円 |
上海 | 11,200 円 |
パリ | 10,800 円 |
為替レートの影響や、チケットの価格は変動制(繁忙期は高く設定される)であることも踏まえると、現時点の入場料は上記金額と全く同じではありませんが、東京ディズニーランドのチケット価格が世界最安水準であることは変わりありません。
ただし、いくら世界最安水準だとしても、「東京ディズニーランドの入場料って、安いなー」と感じる日本人はほとんどいないでしょう。一方で、これが外国人には「安くてコスパがいい」と感じられるそうです。
100 円ショップでは、「ダイソー」が日本の安さを象徴する例として紹介されていました。
ダイソーは 1972 年に創業され、現在では国内に 4,000 店舗、海外(26 の国と地域)にも 2,000 店舗を有する大企業です。商品のほとんどが 100 円(税抜き)で販売されていることはご存知だと思いますが、本書によると、この販売価格は日本のみなのだそうです。海外店舗では高騰する人件費の影響によって 100 円では利益が出ないため、商品販売価格はおおよそ 160-200 円です。
著者はこの点に触れ、「40 年以上 100 円を維持していることは異常事態だ」という指摘をしていました。
この異常事態は、ある事実を反映しています。それは、日本は人件費(=つまり賃金)が上がっていないという事実です。
安いことはありがたいですが、企業の利益には繋がりません
日本の賃金・雇用体制では優秀な人材は確保困難
ビジネスマンや金融リテラシーの高い方には常識かもしれませんが、日本の賃金水準はバブル経済が崩壊した 1990 年代から低迷が続いています。
賃金が低くても、上記のような「安い」ニッポンなら問題ないのでは? と思うかもしれませんが、物価の違いを調整しても、日本の賃金は世界の中でも低いのです。
これの何が問題かというと、グローバル化が進んだ(そして今後一層進んでいく)世界において、日本の企業が力のある人材を確保することが困難になる点です。むしろ、本書では「困難になる」どころか「もう困難になっている」とも述べられていました。
日本の企業は、まだ半数以上が終身雇用制度を続けているとされています。終身雇用は将来の見通しを安定させる一方で、昇給を前提としているため初任給は低くなります。
また、横並びで個人のスキルや技能が賃金に反映されにくい体制でもありますので、スキルを持つ人の目にはそのシステムは魅力的に映りません。そこに海外企業から好条件のオファーがあれば、国内企業からの人材流出が進んでしまうことは明らかです。
この傾向は、特に IT 人材の分野で強いようで、現状では世界で戦う人材確保は難しいだろうという主張が述べられていました。
IT 人材は不足していますが、
日本の給料では流出阻止だけでなく、海外人材の獲得も困難です
安いニッポンの将来像
このように、世界から見ると日本はとても「安い」のです。
日本製品は品質がよいから海外でも売れる、ということをよく聞きます。それはそれでうれしいことなのですが、海外で日本製品が選ばれる理由は、安いからです。安いからよく売れるという、あたりまえの関係です。
また、コロナ感染症のパンデミック以前は、日本を訪れる外国人観光客数は右肩上がりで増加していました。日本は観光資源が豊富で魅力的な国(という自負)という誇るべき点もありますが、外国人から観光先として選ばれる理由は、安いからです。サービスや食事、宿泊代などは諸外国と比較しても安い。そして治安もよく、観光資源もある。本書に紹介されていた「日本はコスパがいいからよく来るわ」という海外からの旅行者のコメントがそれを象徴していました。
このように「安いニッポン」は、今後どんどんと海外からの資本が流入し、土地や企業なども含めて「買われるニッポン」になっていく可能性が高いようです。
一方で日本国民の生活の実感に目を向けてみると、苦しいと感じている人が多いです。多くの調査では、国民の半数以上が生活が苦しいと回答しています。
伸び悩む賃金、コロナショックに加え最近のインフレも相まって、多くの日本人にとっては「安くないニッポン」であるということが現実です。
世界からみた「安いニッポン」と、国内からみた「安くないニッポン」。
このギャップが印象的でした。
まとめ
日本国内に住んでいるとあまり実感しませんが、日本は安いようです。
このことを知ったところで生活が楽になるわけではありませんが、大局はつかんでおきましょう。
本日は、書籍『安いニッポン 「価格」が示す停滞』より、
・ディズニーもダイソーも日本が世界最安。
・賃金は 30 年間伸び悩み、優秀な人材確保が困難になっている
・グローバルな世界の中で、「買えない」「買われる」ニッポンに向かうかも…
上記 3 点について、私なりに要約・感想を記しました。
すでに日本の人口は減少に転じており、それに伴う国力の衰退は免れられません。そのような時代を生きていかなければならい私たちや、その問題がより深刻になるであろう子どもたちが、どのように人生を切り抜けていけばよいか、考えさせられる読書機会となりました。
欲を言えば、この点についての明るい材料や著者の考えも示してもらえるとよかったなあと感じました。しかし、他の誰でもない自分自身の人生に影響することですので、しっかりと自分で考えなければいけません。
これまでの私は「安さ」を非常に重視していましたが、必ずしも「安い」だけが全てではないことや、「安い」には弊害もあるという新しい視点を学ぶことができました。
ぜひ手に取ってみてください。
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