おはようございます。
世の中にはたくさんの仕事があります。言うまでもなくどんな職業にも貴賤はありませんし、また、やるのであれば情熱をもって取り組める仕事に就きたいですよね。
近年行われた米国人材コンサル企業のギャラップ社による調査では、日本企業の社員のうち、「熱意がある」と判定されたのは、全体のわずか 6% だったというデータがあるそうです。
トホホな結果ではありますが、逆をいえば、情熱を持てる仕事を見つけられれば、日本企業の社員の上位 6% になれる可能性があります。
本日は、間違いなくその 6% に含まれているであろう、日本におけるクジラ解剖研究のトップの方が執筆した書籍を読む機会を得ました。
彼女の持つ、クジラを解剖するという非常に珍しい仕事に対する情熱を、少しだけ覗いてみましょう。
本日は、書籍『海獣学者、クジラを解剖する。〜海の哺乳類の死体が教えてくれること〜』(著者:田島木綿子さん)の要約・感想記事です。
本書を読み、クジラの解剖という未知の世界に触れてみましょう。
世の中には、こんな仕事がある『海獣学者、クジラを解剖する。』
記事の内容は、以下の通りです。
- 本書の概要と著者について紹介
- ストランディングした個体の調査が重要な仕事
- クジラの死体の声を聴く
それぞれの内容についてみていきます。
本書の概要と著者について紹介
本書の概要です。
本書は 2021 年に山と渓谷社より出版されました。
電話 1 本で海岸へ出動、クジラを載せた車がパンク、帰りの温泉施設で異臭騒ぎーー。日本一クジラを解剖してきた研究者が、七転八倒の毎日とともに海の哺乳類の生態を紹介する科学エッセイ。
山と渓谷社 商品紹介ページ(https://www.yamakei.co.jp/products/2820062950.html)より引用
「田島さん、クジラが打ち上がったよ」電話 1 本で海岸へ出動!
解剖は体力&スピード勝負、クジラを載せたクレーン車がパンク、帰りの温泉施設で異臭騒ぎ、巨大な骨格標本ができるまで――。
海の哺乳類の知られざる生態に迫るなか、人間が海洋環境に与える影響も見えてきた。日本一クジラを解剖してきた研究者が、七転八倒の毎日とともに綴る科学エッセイ。
彼らはなぜ、生きる場所として再び海を選んだのだろう。海での暮らしに適応するために、どんなふうに進化していったのだろう。そして、なぜ海岸に打ち上がるのだろう。それが知りたくて、一つ一つの死体から聞こえる声に日々耳を澄ます。
著者の田島木綿子さんは 1971 年生まれの女性です。現職は国立科学博物館動物研究部脊椎動物研究グループ研究主幹であり、また筑波大学大学院生命環境科学研究科の准教授でもあるようです。
田島さんは日本獣医生命科学大学(旧日本獣医畜産大学)獣医学科卒業学部を卒業し、東京大学大学院農学生命科学研究科にて博士号(獣医学)を取得されました。学生時代にカナダのバンクーバーで出合った野生のオルカ(シャチ)に魅了され、海の哺乳類の研究者として生きていくと心に決めたそうです。
田島さんは一般の方ですが、テレビやラジオの出演も多く、明るいキャラクターで人気があります。著書は、本書の他に『クジラの歌を聴け 動物が生命をつなぐ驚異のしくみ』(山と渓谷社、2023)があります。
今年 1 月の淀川マッコウクジラ「淀ちゃん」の対応をされていた方です
ストランディングした個体の調査が重要な仕事
ストランディングとは、海生哺乳類が海岸線から陸地側へ生きた状態で座礁したり、死んだ状態で漂着し、自力で本来の生息域に戻ることができなくなることです(日本鯨類研究所 HP)。
ストランディングの主な原因には病気や感染症、餌の深追い、海流移動の見誤りなとが挙げられます。いずれの場合も原因は多種多様で、複雑に絡み合っているようです。
日本の周囲には、世界に存在する約 90 種のクジラのうち、半分ほどが生息または回遊しているそうです。四方を海に囲まれた、まさにクジラ大国といえます。
そのためストランディング件数も多く、その数は年間 300 件近くにもなるそうです。これは本書を読むまでは全く知りませんでした。
そして著者である田島さんを含めた国立科学博物館のメンバーは、ストランディングの一報を受けると、全国各地へ急行します。
国立科学博物館は標本収集や研究、国民への教育普及をミッションとしており、ストランディングして死んでしまった個体は、これらの達成ための貴重なサンプルとなります。それが時間経過によって腐敗してしまったり、自治体に処分される前に急いで調査 / 標本採集をします。
ストランディングの一報を受けてからは、研究メンバーのスケジュール調整、各種道具や機具の手配、自治体との交渉など、とにかく現場に向かうまでのスピードが命です。
現場に到着したら、ストランディングした個体の外貌調査から始まり、その後、内部の解剖調査が行われます。この解剖調査は「ガテン作業」であり、使用する道具は大型のノンコ(手鉤)やクジラ包丁など解剖専用のもので、どれも扱うのに一苦労なのだそうです。
解剖の際には、田島さんの全身はクジラの体液まみれになるそうですが、集中しているため全く気にならないそうです。ただ、作業終了後のお風呂(近くの入浴施設を利用するそう)では、脱衣所でたびたび異臭騒ぎが起きるそうです(この点について田島さんは、同じタイミングで施設を利用していた方々に対して、大変申し訳ないと詫びていました)。
なお、もしストランディングした個体を見つけたときは、不用意に近づくと危険です。生死を問わず、まずは自治体や警察・消防への通報をしましょう。
そして、もし可能であれば近くの水族館やストランディングに関する研究施設へも連絡しておくと、調査を進める上では大変ありがたいそうです。
内蔵腐敗によるガスで、クジラが爆発することもあるみたいです!
クジラの死体の声を聴く
本来ならば海に住んでいる哺乳類たちが、原因はなんであれ陸地に打ち上がってしまった状態がストランディングです。
どうしてそのような状況に陥り、そして命を落としてしまったのか。なぜその個体は死ななければならなかったのか。そこに私たち人間の活動は関係しているのか。そうであるなら、これから私たちはどのような対策をとるべきなのか。
例えば、愛くるしい見た目で人気があるスナメリは、実はクジラの仲間です。そんな人気のあるスナメリですが、実は日本沿岸に多数ストランディングするそうです(伊勢湾周辺だけでも年間 60 個体程度)。
スナメリは沿岸域に生息するため、人間社会の影響を受けやすいとされています。埋め立て工事によって餌や棲息場所が失われたり、河川経由、大雨経由で陸から流出する汚染物質にさらされるリスクも高いです。
田島さんは、ストランディングしたスナメリの死体は、人類の環境汚染に対する警鐘を鳴らしているのではないかと述べていました。
また、クジラではありませんが、スナメリと同様に愛らしいシルエットで人気のジュゴンやマナティも、ストランディングが多数報告されている生き物です。報告される地域はアメリカのフロリダで多いようです。
フロリダといえばビーチを中心としたリゾート地として有名ですが、その開発によって彼らの生息域を脅かしてしまう、あるいはボートのスクリューによる外傷が致命傷となることもあるようです。
上記のように、ストランディングには、多少なりとも人間社会の影響が関与しています。私たちの暮らし(例えば、プラスチックごみや汚染物質による海洋汚染)も、ストランディングと全く無関係ということはなさそうです。
田島さんは、人間生活のストランディングへの影響を含め、未だに残る多くの謎を研究・解明することを使命とし、日々現場に向かっているのです。
私たちは、海を守るためにできることをしていきましょう。
まとめ
ストランディングしたクジラを解剖するという、私の人生では絶対に経験できない世界を垣間見ることができた読書経験でした。熱意をもって仕事に取り組んでいる人は、輝いて見えますね。
本日は、書籍『海獣学者、クジラを解剖する。〜海の哺乳類の死体が教えてくれること〜』より、
- 本書の概要と著者について紹介。田島さんは国立科学博物館の職員で、ストランディングの一報を受け全国各地を飛び回っている方。
- ストランディングとは、海の哺乳類が生死を問わず陸地に座礁 / 漂着する現象。日本はクジラ大国で、ストランディング件数も多い。
- 田島さんは、解剖を通してクジラの死体から発せられるメッセージを受け取っている。私たちも決して無関係ではなさそう。
上記 3 点について、私なりに要約・感想を記しました。
自分の人生では絶対に知ることのない世界を、間接的とはいえ経験できることは、読書の醍醐味の一つです。今後の私の人生で、漂着したクジラを解剖することは絶対にありませんので、知的好奇心を満たす、よい読書経験でした。
これからストランディングのニュースを見かけたら、これまでとは違った視点から眺めてみたいと思います。
ぜひ手に取ってみてください
【一般人が絶対に経験できない職業について書かれたオススメ書籍の紹介】
『バッタを倒しにアフリカへ』
著者の前野ウルド浩太郎さんは、バッタ博士です。
アフリカの地モーリタニアでのバッタ研究記録が、めちゃくちゃ楽しい文章でまとめてあります。オススメの書籍です!
『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』
本書では、プロ野球チームの監督という職業について、その厳しさや大変さを学ぶことができます。
スポーツノンフィクションの傑作だと思います。中日ファンでなくても必読の一冊です。
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