おはようございます。
非常に印象的なタイトルの書籍です。
私たちは主に歴史の授業で戦争について学びましたが、記憶にあるのは中心的な指導者や戦争の名前、戦争の結果や結ばれた条約などです。指導者も条約締結の場面でも出てくるのは男性ばかりで、タイトルにあるように、戦争と女性の顔はなかなか結び付きません。
そんななか、本書では戦争を女性への聞き取りという角度から描いています。本書を読み、これまでに考えることのなかった視点から、改めて戦争を見つめなおす機会となりました。本書から学んだこと・感じたことについて記事にまとめたいと思います。
本日は、書籍『戦争は女の顔をしていない』(著者:スヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチさん)の要約・感想記事です。
教科書で取り上げられない角度から戦争を振り返ります
「女性と戦争」を記した証言文学『戦争は女の顔をしていない』
記事の内容は、以下の通りです。
- 本書の概要と、著者について紹介
- 百万を超える女性が従軍したという史実
- 印象に残ったエピソード
それぞれの内容についてみていきます。
本書の概要と、著者について紹介
本書の概要です。
ソ連では第二次世界大戦で 100 万人をこえる女性が従軍し,看護婦や軍医としてのみならず兵士として武器を手にして戦った.しかし戦後は世間から白い目で見られ,みずからの戦争体験をひた隠しにしなければならなかった――.500 人以上の従軍女性から聞き取りをおこない戦争の真実を明らかにした,ノーベル文学賞作家の主著.
岩波書店 商品紹介ページ(https://www.iwanami.co.jp/smp/book/b256544.html)より引用
著者はスヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチさんで、1948 年生まれ(75 歳)のベラルーシ国籍の女性です。アレクシエーヴィッチさんはベラルーシ国立大学でジャーナリズムを専攻した後にジャーナリストとして活動を開始しました。本書はそんな彼女の第 1 作にあたります。
彼女の他の著書としては、第二次世界大戦のドイツ軍侵攻当時に子供だった人々の体験談を集めた『ボタン穴から見た戦争』や、冷戦時代のアフガニスタン侵攻に従軍した人々や家族の証言を集めた『アフガン帰還兵の証言』、1986 年に起きたチェルノブイリ原子力発電所事故に遭遇した人々の証言を取り上げた『チェルノブイリの祈り』などがあります。いずれも聞き手を通して社会や大事件を描く手法を用いており、彼女によって「聞き書き」のジャンルが確立されたといわれています。
2015 年には「現代の苦しみと勇気を如実に表す、多様な声を集めた記念碑的作品」を書いた功績により、ジャーナリストとして初めてノーベル文学賞を授与されています。
ロシアのウクライナ侵攻に対しても批判的な立場をとっている方です
百万を超える女性が従軍したという史実
本作は、第二次世界大戦でソ連軍として従軍した女性たちへの聞き取りをまとめた著書です。聞き取り対象の幅は広く、母としての女性たち、青春時代を戦争ですごした女性たち、兵士として、または兵士をサポートする立場として戦争に参加した女性たちなど、様々な角度から戦争のリアルが描かれていました。
ここで少し史実をまとめてみようと思います。
第二次世界大戦は 1939 年の英独戦争に始まり、1941 年の独ソ戦争、同年 12 月の太平洋戦争を経て、1945 年 5 月にドイツが、同年 8 月に日本が降伏したことで終わる戦争です。独ソ戦ではアドルフ・ヒトラーが総統を務めるナチス・ドイツを中心とする軍隊とソビエト連邦が対峙しました。当時のソ連軍には 80 万人とも 100 万人ともいわれる女性が従軍していました。そのうち 1-2 割が歩兵、狙撃手、戦車兵、パイロットなど前線で、その他には医師や看護師、食事や洗濯係など兵士をサポートする役割だったともいわれています。
本ブログでは過去に小説『同志少女よ、敵を撃て』を紹介しています。この作品では、独ソ戦でソ連軍に従事した女性狙撃兵が主人公として描かれています。個人的には、小説としても大変楽しめましたし、このような史実を知るきっかけとなった作品です。
女性の従軍、歴史の教科書では学んだ記憶がありませんが、紛れもない史実です
印象に残ったエピソード
本書では多くの女性の証言が載せられています。ここではいくつか個人的に印象に残ったものを挙げたいと思います。
<自らの手で我が子を…>
戦地で潜伏する際に、敵に気づかれることは死を意味します。このエピソードは、生まれたばかりの子の泣き声で敵に気づかれることを避けるために、自らの手で子を窒息させたという女性の証言が記録されていました。胸がつまる思いでした。
<青春時代を戦争ですごした女性たち>
本書を通じて意外に感じたのは、インタビューを受けた女性の多くが「自ら志願して前線へ出ていった」という点でした。志願理由は敵への憎しみだけでなく、当時の指導者であったスターリンの影響力や彼を中心とした政府への忠誠心(愛国心)もかなり強かったようです。本書では戦場での恋や、女性ならではの苦労した点(男性用の下着しかなかった、など)の経験が語られていました。
また、終戦後はスカートをはくことに違和感を感じたという変化や、お嫁さんとして誰ももらってくれないこと、前線に立っていた(大勢の男性の中で過ごしていた)という経験をひた隠しにして生きていかなければならなかったという辛い思いも吐露されていました。国のために人生を捧げてきた彼女たちが白い目で見られたということも、紛れもない事実なのでしょう。
ここも読んでいて胸が苦しくなる箇所でした
まとめ
教科書では語られない事実を知るための貴重な書籍だと思います。
戦争の悲惨さとともに、平和の大切さを改めて感じました。
本日は、書籍『戦争は女の顔をしていない』より、
・本書の内容および著者について概説。本書は 500 人以上の女性への聞き取りをもとにしたもの。
・第二次世界大戦中、ソ連軍には 80-100 万人以上の女性が従軍したという史実がある。
・本書には母としての女性、青春時代を戦場で過ごした女性など、多くのエピソードが記されている。胸が苦しくなる記録も多い。
上記 3 点について、私なりに要約・感想を記しました。
本書を読み、男性が主となりがち(と個人的に思っていました)な戦争を、別の角度から見ることができました。こうした記録は表舞台には出ないかもしれませんが、紛れもない事実です。大変よい読書経験になりました。ただし、これらの聞き取りは戦争で生き残った人たちの証言です。その点ではある意味バイアスがかかっているとも言えます。その点は心に留めておく必要があるとも感じました。
ぜひ手に取ってみてください
2023 年現在、たいへんありがたいことに日本は他国を侵略せず、他国からも侵略されないという状態が続いています。平和のありがたみを改めて感じました。世界各地で起こっている侵略行為や紛争が、それぞれ望ましい形で終結することを願っています。
【オススメ書籍の紹介】
『同志少女よ、敵を撃て』
記事中にも紹介しましたが、独ソ戦を舞台とした小説です。
個人的には、2022 年に読んだ小説の中で一番面白かったです!
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